会いたかった兄との時間②/終末期のこと[7]

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2021年10月下旬『夫タケさんの余命が週単位である可能性も十分に考えられる』と説明し、一刻も早く帰国できないかとタケさんに内緒でLINEしてから5日後の飛行機で帰国した兄。

中国に単身赴任中だった兄。

この頃はまだゼロコロナ政策中であり、人の往来も少なかった時期。

帰国したのはいいものの、日本での隔離生活2週間。中国に帰った後もホテルでの隔離生活3週間。合計5週間の隔離生活を覚悟して帰国してきてくれました。

タケさんとの再会を果たしたのは隔離期間が明けた11月中旬のこと。

隔離明けすぐに1人で一泊しに来て、その後家族で来て半日、そして帰国前に1人で半日。

目次

兄とタケさんの関係図

タケさんは両親と兄の4人家族。両親は既に他界しています。

私がタケさんの実家にお邪魔するようになったのはタケさんとの結婚を意識し始めた21歳の頃。

その頃はまだ兄は大学生で、実家から大学に通っていました。

タケさんの両親は優しくて、4人揃うとまぁ賑やかなこと。

母がニコニコと料理の支度をし、父と兄とタケさんで酒を飲み、みんなでご飯を食べながらワイワイととにかく笑いが絶えない。

兄とタケさんはしょっちゅうプロレス技を掛け合って

「ギブギブ!!!」

とどちらかが言うまでこれでもか?とかけまくる。

それを両親は「またやってるわ」って感じで笑って見てる。

早くに父を亡くした私にとっては信じられないようなあったかい家族の姿だったんです。

この家族の中で育ったタケさんなら結婚しても大丈夫

そんな風に思えたのも結婚のきっかけの一つ。

この『兄弟プロレス』。結婚してからも長い事続き…親戚の法要後の会食の場でも当たり前に行われて、親戚一同も「またやってる」的な笑いに溢れ、皆をホッコリさせる役目(?)も担っていました(笑)

幼い頃の兄とタケさん

そんな兄弟でしたが、子どもの頃の昔話はけっこう壮絶で…

やんちゃ坊主の兄と弱虫の弟タケさん。

兄はいつも泣いているタケさんが情けなくて、強くしようとやれ押入れの上の段から飛び降りてみろだのジャングルジムから飛び降りてみろだの無茶を強要し、プロレス技も容赦ない攻撃だったそう。

絶対的な上下関係で反発は許されず。

でも公園でイジメられた時にはどこかから聞きつけて兄が飛んできてイジメた奴らをボコボコにしたそう。

思春期に入ってからはやんちゃな兄のおかげで上級生からイジメにあう経験はしなくて済んだと言うから相当なやんちゃっぷりだったのでしょう。

タケさんは常々「兄貴のおかげで俺は強くなれた」と言っていました。

会いたかった兄との再会

癌が視神経を圧迫し、左目はまったく見えていなかったタケさん。

再会できた11月中旬はタケさんは右目の見えずらさを自覚し始めていた頃でした。

兄を駅まで車で迎えに行って、2年ぶりの再会を果たしたのはタケさんの寝室。

予告していた通り、タケさんは兄の声を聞いて泣きました。

1泊2日の兄弟の濃い時間。体力が落ちているので寝ている時間が多かった、その起きていられる時間は兄弟2人でずっと会話していました。

ベッドで横になったタケさんと、横に座る兄。

時には手を繋ぎ、涙しながら延々と話をしていました。

何を話しているのだろうと気になりながらも、あえて入室はしませんでした。邪魔しないように。

息子たちにとっても兄は憧れの叔父です。タケさんが早くに寝てしまった後も酒を飲みながら夜遅くまで賑やかに過ごしました。

帰国直前に家に兄が来てくれた時には右目はぼんやり見える程度までタケさんの視力は落ちていました。

半日の滞在でもあまり起きていられず、寝ている時間がほとんどでした。

帰る予定時刻が近くなってタケさんを起こすと、タケさんは慌てて残り時間を惜しむように、堰を切るように話し始めました。

・自分は兄のおかげで強くなれたこと。

・まだ死ぬつもりはないけれども、万が一自分が死んだ時に一番心配なのは残された家族である事。

・万が一家族が困る事があったら助けてやってほしいこと。

・今回無理して帰ってきてくれた事がとても嬉しかったこと。

・今回帰ってきてくれた事だけで十分だから、自分の葬儀には帰ってこなくていいから、帰国できるようになったら墓参りに来てほしいこと。

話すタケさんも泣いて、うなづく兄も泣いて、聞く私と息子たちも泣いて…

結局帰る予定の時間の電車を大幅に遅れ、家を出る前、兄弟でハグをして別れました。

帰りの車中、無言のままの兄と私と次男ゴボさん。3人が泣いていました。

駅で別れる時、

「会いにきてくれて、タケさんを元気付けてくれて、本当にありがとうございました」

となんとか言えた私に

兄は感謝の言葉と「〇〇(タケさん)をよろしく頼みます」と言いました。

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